最近はCDをプレイヤーに入れて再生する機会もめっきり減ってきていますが、それでも時々はライナーノーツを横目に”ひと手間”かけて聞きたいものがいくつかあります。
その中でもモンセラートの朱い本が纏められたこのアルバムです。

歌詞の内容的にはキリスト教に基づいたいくつかの説法や説話をテキストにしていますが、音楽そのものはどこか牧歌的であり、愉楽を含み、演奏に遊びを許容する内容になっています。

この本の成立が13世紀から14世のカタルーニャということですが、
12世紀頃からスペインや南フランスには自ら詩を作り、歌を即興する”トルバドゥール”と呼ばれる貴族が多く、各地の王宮などを歴訪しては簡単な楽器の伴奏とともに歌った歴史があります。
(同じ頃北フランスに起こった”トルヴェール”、ドイツでの”ミンネゼンガー”も大体同じようなもので、彼らは一般に吟遊詩人、抒情詩人と呼ばれます)

彼らの歌う詩の内容は恋の歌・自然の讃歌・道徳的なものといったように、音楽へのアプローチは現代と変わりがないものではありますが、このモンセラの朱い本と時代を同じくしていた事は面白くもあり、奇妙にも思えます。

音楽の専門家でなければ、あらかじめ記譜されているような音楽では感情の高まりであるとか、霊感の一瞬であるとかを表現するのに都合が悪いことが多々あります。
トルバドゥールは専門家による即興が確立されたことに対し、モンセラートの朱い本は朴たる信仰者のために書かれた魂の譜面なのです。