昨今、弦楽四重奏というものがどれぐらい世間に浸透しているかは分かりませんが、おそらく馴染みのないものだと思います。
一般的にはバイオリンが2人、ビオラ1人、チェロ1人の小編成の室内合奏で、クラシック愛好者でも生演奏を聴く機会に恵まれていないのが現状ではないでしょうか。
そんなわけでここでは弦楽四重奏を色々と紹介していきましょう。

…とその前に、弦楽四重奏が日の目を見ないのにはいくつか理由があります。

■奏者はスタンドプレーと調和を両立しないといけない。
合奏なので他の奏者の呼吸を合わせてハーモニーを作っていく必要がります。
しかし4人しか居ないので、聴き手は誰がどのように演奏しているかは注意すれば分かります。

ここがミソで、誰か一人が特別上手い演奏をしても全体のバランスを壊すことになるので、
有名なソリストを金を積んで集めたからといって良い演奏になるわけではないのです。
3人だと個性のぶつかりも味になってよいかもしれません。5人だと響きをどうまとめるかに偏ってきます。
4人という編成はその両立をしなければならない難しい編成なのです。

また奏者同士の相性もありますので、演奏機会に壁が出来てしまう要因となります。

ボッケリーニ 6つの小弦楽四重奏曲より

弦楽器が貴族の嗜みだった時代には、小編成曲はサロンで演奏しやすく喜ばれて沢山の曲が生まれては消えていきました。
気の合う仲間内で、そんなに上手くなくても弾ける優雅な曲。
ボッケリーニは膨大な室内合奏曲を残しており、当時の世情を垣間見ることが出来ます。

ハイドン 弦楽四重奏曲第77番 – 1楽章

ハイドンも同様にクライアントの注文に答え沢山の曲を書きました。
1曲大体30分ほどの曲が80曲以上作曲されたようで、一体いつ寝ているのかという感じですよね。
音楽性も備えており、ハイドンの影響力もあって次世代の地固めとなりました。

アマデウス・モーツァルト 弦楽四重奏曲第14番

モーツァルトもハイドンの影響を受け、音楽理論の実験も兼ねて沢山の曲を書いていきます。
ここで紹介しているのはハイドンセットと呼ばれ、全6曲をまとめてハイドンに献呈された曲群で、既にハイドンの音楽性から抜きんでいます。
ちなみに献呈した時モーツァルトは24歳。
しかも早書きのモーツァルトが2年を費やして書かれた曲だけに、非常にがっしりとした構成です。

アントニオ・サリエリ

モーツァルト繋がりで当時楽壇で幅を効かせていたサリエリの曲も紹介。

ロマン・ホフシュテッター

今ではほぼ知られていないアマチュア作曲家が弦楽四重奏で後世に残る曲を残す事もあります。
この曲は…良く知られてますよね。

アマチュアを除くとモーツァルトの時代あたりまでは、作曲の依頼主がいて受注生産するのが主流でした。
しかしベートーベンの登場によって音楽が個人の表現手法として変わり、同時に弦楽四重奏は内面を表現をする格好のジャンルとして扱われていきます。

■聴き栄えのする有名な曲が少ない。
クラシックは四声(ソプラノ・アルト・テノール・バス)という音の高低分けを基礎に作られています。
弦楽四重奏はその4つそれぞれに役割が割り当てられやすいため、音楽の基礎力がモロバレしてしまう編成でもあります。

逆に言えば弦楽四重奏は作曲家にとって力を試す登竜門的なジャンルとなり、エンターテイメント性よりも音楽性を重視する事が多くなったようです。

ベートーヴェン 弦楽四重奏曲第14番より

ベートーベンは弦楽四重奏を人生の節目節目に作っています。特に交響曲を書く前には手慣らし?のように弦楽四重奏を作っているようです。
この14番は晩年に書かれており、作曲中には甥の自殺未遂や金銭的な逼迫と幸せといえない状況でした。
そうした苦悩を表すような楽曲は既にサロン音楽とは程遠く、音楽が芸術として後世の作曲家に影響を与えたのです。

時代は下りロマン派の作曲家はベートーベンという大きな壁にぶちあたります。
完璧な処方で書かれて、内面をえぐるような音楽。
これを超える曲を弦楽四重奏という制限された編成でどう作れば良いのか。

メンデルスゾーン 弦楽四重奏2番より

多作家で比較的楽天的なメンデルスゾーンは6曲

シューマン 弦楽四重奏 op.41-1より

ロマン派筆頭のシューマンは弦楽四重奏を3曲残しています。

ブラームス 弦楽四重奏曲第2番より

ブラームスも3曲

とこのように弦楽四重奏はおいそれと手を出せないジャンルとなり、一時期ぐっと自然と世に出る曲も少なくなります。
しかし近現代の作曲家も弦楽四重奏は試金石として避けて通れないジャンルです。
ここからは早足で曲を紹介していきます。

マックス・ブルッフ 弦楽四重奏曲第1番 3楽章

ドヴォルザーク 弦楽四重奏曲第12番


セルゲイ・タネーエフ

プッチーニ 弦楽四重奏曲

セザール・フランク 弦楽四重奏曲

モーリス・ラヴェル 弦楽四重奏曲

クロード・ドビュッシー 弦楽四重奏曲

アレクサンドル・グラズノフ

アルノルト・シェーンベルク 弦楽四重奏曲第2番

アルバン・ベルク 抒情組曲

グリーグ 弦楽四重奏曲

ジャン・シベリウス 弦楽四重奏曲op. 56

バルトーク・ベラ 弦楽四重奏曲第6番

パウル・ヒンデミット 弦楽四重奏曲4番

サミュエル・バーバー 弦楽四重奏曲第1番 2楽章

フィリップ・グラス 弦楽四重奏曲第5番

シュトックハウゼン ヘリコプター弦楽四重奏曲

最後にヘリコプターに乗って演奏する指示付きの弦楽四重奏をば。

さて、色々紹介してきましたが、ピンときた曲はありましたか?
何度も聴くことで良さが分かる類の曲が多く、言ってみれば通好みのジャンルになってしまったかもしれませんね。

しかしだからこそ今回リリースする「Nocturne」は弦楽四重奏で作ろうと決めました。
弦楽四重奏で世に問うのは恐れ多いものです。
しかし上記の流れを見返して、聴き手本位の作品に仕上げたつもりです。

2013年4月リリース予定。乞うご期待です。